第8章 ハートの無いトランプ
「僕は如月ひなたさんが好きです」
「・・・!?」
グッと顔を近付けられたかと思うと、突然何度目か分からない告白を受けた。
「可愛らしい笑顔も、優しい所も、見ていないところで頑張っている姿も」
私の戸惑いも置いていって。
彼はつらつらと、言葉を並べていった。
「人のことをよく見ていて、小さな変化に気付けることも素晴らしいと思います。それに・・・」
「も、もういいです・・・っ!」
これ以上、何を聞かされるのか。
むず痒さに耐えられなくなり、彼の言葉をかき消した。
どうせ上辺だけの言葉だ。
彼にとっては常套手段に過ぎない。
いくら聞いたって無駄な言葉達だ。
「・・・そうですか?」
そう零す声色は不服そうに聞こえるが、知ったことでは無い。
これ以上こんな事が続くのであれば、この場はもう退散した方が時間の無駄にならずに済む。
「では、次は態度で」
「!?」
そんな考えすら、まともにさせてはくれない。
ベッドに押し付けていた手を持ち上げたかと思うと、私の指先にそっと唇を落とされた。
「触れても大丈夫な所ですから・・・構いませんよね?」
「確認しないでください・・・っ」
・・・苦手だ。
ある意味、甘やかされているようなこんな行動が。
組織にいる頃、やむを得ず行ったハニートラップで、どの男達もこんな事はしなかった。
ただ獣のように体だけを求めてくる、汚らわしいものでしかなかった。
・・・未だにこうして私の記憶に居座る、あの男達のように。
ウェルシュとして会ったターゲットは毎回、早めに気絶させては蔑む視線を送っていたことが、懐かしく思える。
「では、ここは今後確認を取りません」
「・・・っ」
彼はそう言うと、再び指先へと唇を落とした。
今は体を硬直させないだけで精一杯だ。
息すら、まともにできない。
「と、透さ・・・っ」
その名を呼んでも良いのかすら分からない。
今の彼は、バーボンでも安室透でもないように見えたから。
それでも何とか声を絞り出すと、それ以上は・・・と、目で訴えた。