• テキストサイズ

【安室夢】零番目の人【名探偵コナン】

第8章 ハートの無いトランプ




「・・・っ」

頬に、滑らせるように彼の手が添えられた。
体温が一体となり、互いが互いを染め合うようで。

・・・それにすら、恐怖を覚えた。

「!」

また瞼を閉じてしまいそうな衝動を何とか抑えていると、頬に添えていた彼の手が、俯いていた私の顔をそっと上げさせて。

彼の目を、見つめさせられた。

「ひなたさん」

・・・やはり、洗脳のようだ。
何度も名前を呼ばれ、見つめられ、そしてこの男に溺れていく。

こんなの、彼の正体を知っていなければ、誰だって勘違いする。

自分が彼にとって、特別なのではないか、と。

「キスはどうですか?」
「!?」

頭の中だけは、比較的冷静さを徐々に取り戻していたのに。
瞬く間にそれは音を立てて崩された。

「え・・・っと・・・」

真っ直ぐに、見つめてくる。
それに気圧されるようで。

いつだって捨てる覚悟はできていたはずなのに、いざとなればこうして怖気付く。

顔にも、動揺を出してしまった。

やはりさっさと捨てておけば良かった、と遅過ぎる後悔をしていた時。

「勿論、唇ではなくて、触れても構わない場所に・・・ですよ」

いつもの何を考えているのか分からない笑顔で、そう付け加えられ、咄嗟に唇を軽く噛んだ。

・・・からかわれたのだろうか。

いや、そうでなければ、何だと言うのか。

「ここは、好きな人としか・・・しないんですよね?」

ゆっくり、頬に添えた彼の手の親指が、私の唇をなぞって。

まるで私から懇願するよう、試されているように感じた。

「それなら、構わない・・・で」

別にそれが唇だろうと関係ない。
どこだって同じだ。

頬だって、同じ皮膚の延長だ。

・・・そう言い聞かせたのも束の間。

「ッ・・・!!」

一瞬、彼から目を背けた瞬間だった。

軽いリップ音と共に、頬に柔らかい感触を受けたのは。



/ 368ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp