第8章 ハートの無いトランプ
「・・・ひなたさん」
「!」
触れられると思っていた手は中々触れないまま、彼に名前を呼ばれて。
固く閉ざしてした瞼がパッと持ち上がると、私をただ真っ直ぐに見つめる彼の姿が目に映った。
「嫌でしたら、ハッキリ伝えてください。その為の、確認ですので」
その目があまりにも綺麗で。
言っている言葉もそうだが、あのバーボンのものとは、どうにも思えなくて。
目の前にいる彼は、あの時とは別人なのではないかと思ってしまう程だった。
どうして、今更。
前まで何の躊躇いも確認も無く、強引にでも触れてきたのに。
何故この期に及んで、確認なんてするのか。
「・・・ま、前にも触れてきたじゃないですか・・・」
これも彼の作戦なのかと勘繰ったけど。
考えが纏まらない。
答えが・・・出ない。
そもそも、彼の考えが私に分かるわけがない。
彼の行動はいつも、理解できないものが多かったから。
「以前は全て最後に拒まれていますから。今度は全て許可を取ろうかと思いまして」
私の言葉に、彼は少し残念そうな声色で、そう話した。
・・・確かに理由は違えど、以前彼に近寄られた時は最終的に全て拒絶した。
「ひなたさんの嫌がることはしたくありません」
嫌だった・・・というのも勿論あるけれど。
彼に抱きしめられたアレは、拒絶というよりは、戸惑いからの反発だったようにも思う。
「・・・・・・」
あの時、同時に感じていた恐怖という感情も、その時とは違う恐怖がある。
単純に、バーボンという人間と、男性ということへの恐怖。
それが、今は少し変わっていて。
「・・・嫌だと思う時は、きちんと言います」
・・・どこかで彼を、受け入れていることへの恐怖。
何よりこの事実が、怖かった。
「では、触れても?」
彼の問いに、私は小さく首を縦に動かして。
今度は瞼を閉じず、握られている手をジッと見つめた。