第8章 ハートの無いトランプ
ベッドに腰を下ろすと、体重分だけ体が沈んで。
小さく、ギッと音を立てるそれに罪悪感のようなものを覚えた。
「ひなたさん」
真横で名前を呼ばれ、小さく肩が震えた。
たったそれだけなのに。
それだけのことが、私を動揺させる。
「お付き合いの一歩手前とは・・・どこまで大丈夫なものですか?」
「・・・?」
重ねた手を握ったまま、彼は私の顔を覗き込むようにして尋ねてきた。
どこまで、というのは何が・・・と目で尋ねると、彼は握っていた手を目の前に持ち上げて。
「所謂、スキンシップです」
「・・・!」
そう返事をされた。
羞恥から思わず握られていた手を引いたが、彼が強く握っていたせいで、振りほどくことはできなかった。
・・・もしかして、もしかしなくても。
まさか、私をここに呼んだ理由とは。
「話って・・・、この話だけですか・・・?」
「そうです。大事な事ですから」
一時間待って、斜め上の考えをして。
結果、この話だけなのか。
「同意は得ておかなければいけないと、思いまして」
それは、そうだけど。
私の言った意味としては、今日でなくても良い話だったのでは、ということで。
「僕には時間が、ありませんからね」
・・・私の心を読んでいるのか。
それとも私が分かり易過ぎるのか。
恐らく、私が提示した期間のことを言っているのだろうけど。
「・・・それで」
唖然とも呆然とも言える状態のまま固まっていると、彼は仕切り直す言葉を口にして。
「手は、握ってもいいですよね?」
私の戸惑いは関係なく、確認は進んでいった。
「は、はい・・・」
気圧されるように返事をするが、正直何に返事をしたのか分からない。
それくらいに、動揺と混乱と少しの恐怖でおかしくなっていた。
「では、頬に触れるのはどうです?」
「え、あ・・・」
手を握る方とは別の手をゆっくり伸ばされ、ようやく目が覚めたような気になった。
手が・・・伸びてくる。
今更、そんな行動に思わず目を瞑って。
「・・・っ」
ああ、情けない。
昴さんとのアレはなんだったのか。
何の為に私は。