第8章 ハートの無いトランプ
「長い時間待たせてしまって、本当にすみませんでした。今、お茶準備しますね」
「あ・・・手伝います」
代わりに棚からティーカップを取り出すと、彼はヤカンに水を注いで。
前回何も入れなかったからと言って、今回何も入れないとは限らない。
彼の手元からはなるべく目を離さないまま、準備を進めた。
「・・・・・・」
今、彼からは安室透としての雰囲気が強く感じられた。
学校にいる間は、なるべく安室透だと思うようにしていたが、雰囲気はバーボンが近かった。
「・・・透さん」
「はい」
その柔らかい声色、優しい表情。
それらを見て感じて、何となくだが。
「何か、いい事ありました?」
そう、思った。
「・・・それは勿論、依頼者が無事でしたからね」
私の質問に彼は言葉ではそう言ったが、本当の答えでないことは何となく察していた。
この違和感は・・・何だろうか。
「それに」
憂いを晴らすような、そんな出来事があったように思えたのだけど。
「ひなたさんが待っていてくれましたから」
追加で得た答えも、はぐらかされるようなものだった。
「・・・・・・」
ズルいテクニックを、幾つも持っているのだな。
本当に・・・羨ましい限りだ。
「あの、そういえば話って・・・」
ティーカップに紅茶が注がれると、彼はそれを奥の部屋へと運んだ。
ベッドの横に置いてあるテーブルへとそれらを置くと、何故かベッドに横並びで座るように誘導された。
「できれば、傍で話がしたいんです」
・・・ああ、これは。
話では・・・ないかもしれない。
そう感じた瞬間に、体は途端に強ばった。
何となく、その覚悟もしていたのに。
深くにも怖気付いてしまった。
「大丈夫です」
そんな私を見かねてか、彼はベッドに座ったまま、少し離れた位置に立つ私へ優しく手を伸ばして。
「今から、その話をさせてください」
・・・何も言っていないのに。
至って真面目に、私の目を見て。
時折見る、見透かされるような瞳。
ただそれは、嘘をついてはいないと、証明するようなものにも思えていて。
伸ばされた手に、そっと手を重ねた。