第8章 ハートの無いトランプ
被害者のことは気になる。
ジョディもお世話になったようだから。
けれど私が行ける理由はない。
ジョディはすぐに向かうだろうから、私はその情報だけで大人しくしよう。
そう考えつつ、透さんへともう一度視線を戻した時。
「・・・ひなたさん、すみません。僕も様子を見に行ってきます。一応、僕の依頼者なので」
彼は先程の申し出をキャンセルさせた。
そもそも、その依頼は本当に偶然だったのか。
なんてことは、今考えるべきではないか。
「私のことは気にせず、是非そうしてください」
寧ろ好都合だ、ということも考えるべきではないだろうな。
1人で帰るのであれば、タクシーでも拾うかと脳裏で考えていると、目の前に立っていた透さんは徐ろに一歩、私と距離を近付けた。
「あの、ひなたさん」
そういえばさっき、何か言いかけていた。
その続きか、と小首を傾げながら何かと無言で問うと。
「・・・少し話がしたいので、僕の部屋で待っていてくれませんか」
「え・・・」
予想外の言葉が飛んできた。
話がしたい、というのは分かる。
けれど。
「待っていてくれますか?」
彼の部屋、で?
聞き間違いかとも思ったが、彼が差し出した部屋の鍵が、そうではないことを示していた。
「・・・分かりました」
罠だろうか。
油断させる為か?
いずれにせよ、純粋な気持ちで待つことはできそうにないが、彼のお願いを素直に聞き入れた。
ーーー
あれから一時間程経った。
一度部屋に戻り、身なりを整えると透さんの部屋へと向かった。
・・・といっても、隣の部屋に移動するだけだ。
であれば尚更、私の部屋で待っていても良かったのではないだろうか。
「・・・・・・」
ここに呼ばれた理由で考えられるのは、部屋にカメラが仕掛けられているか・・・組織の人間に待ち伏せされているか。
色々あったが、調べる術はない。
いや、あるにはあるが、下手に手を出せない。
仮に前理由であった場合、普通の人はカメラを探すような真似をしない。
・・・あくまでも透さんには、ウェルシュとして正体をバラしていないから。