第8章 ハートの無いトランプ
「観光を満喫したのなら、そろそろ出て行ってくれませんかねえ?」
先程までの態度から、少し声色に変化があった。
どこか怒りを含んだような声色。
「僕の日本から」
・・・いや、恨みのような。
嫌悪とも似て非なるそれは、何とも言葉では言い表し難いものだった。
その上、彼は妙に引っかかる言い方をした。
僕の、とは・・・どういう意味が込められているのか。
組織としての行動範囲は、勿論ここだけではない。
なのに何故、彼は日本を背負うような言葉を口にしたのだろう。
そんな私の疑問を他所に、その後事件は速やかに解決された。
途中、コナンくんが透さんの手を引き、隅の方で何か話をしていたようだったけど。
彼の表情から察するに、あまり良い話ではなかったようだ。
ー
「お送りします、ひなたさん」
「・・・ありがとうございます」
現場で粗方話していた為か、警察からの話もそこそこに、私たちには帰宅許可が下りた。
「やはり、流石ですね」
「私は何もしていませんよ」
ジョディや、キャメル捜査官が話してくれたおかげで、私はあまり口を出さずに済んだ。
「またまたご謙遜を」
キャメル捜査官も、上手く私を疑ってくれているようだ。
僅かに事情を知るジョディが、その後は何とか上手くやってくれるだろう、と彼らには背を向けた。
「・・・ひなたさん」
「はい」
職員室ではまだ慌ただしさが残っていたが、どうせ手伝えることは何も無いのだから、と職員室を出かけた。
その時、ふと透さんに名前を呼ばれ、振り返った瞬間だった。
「すみません!今病院から連絡があって・・・渋谷先生の容態が悪化して危険な状態だって・・・」
1人の教師が、職員室の前に姿を現すなり、青ざめた表情でそう伝えた。
振り返って、一度は透さんに向いた視線は、すぐさまその教師に向けられて。
その後、ジョディへと向きかけたが・・・そこは何とか体を抑え込んだ。