第8章 ハートの無いトランプ
「じゃあ、偶然なんだ?」
「僕はね」
僕は、なんて含んだ言い方をするのか。
それはジョディが偶然じゃないと言っているのか、私もそうでないと思っているのか。
かく言う私も、コナンくんは偶然ではなく必然でここにいるのだと思っているけど。
「如月さんは?どうして安室さんと?」
あー・・・、と思わず視線を彼から逸らし、これから真実は語らない、と態度で示してしまった。
「・・・色々あって」
であれば、盛大に覆い隠してしまおうかと、彼に笑みを向けた。
コナンくんは不服そうに唇を尖らせたが、すぐに気持ちを切り替えたのか、辺りを数回見回すと、今度はスマホを取り出して。
「・・・じゃあ、もう一つ質問」
素早く、彼は画面に何か文章を打ち込みながら話を続けた。
その妙な姿に首を傾げつつも、静かに彼の様子を伺って。
「如月さんは、安室さんのこと好きなの?」
突拍子もなくそんな事を問いながらスマホの画面を見せると、彼は真剣な表情を変えないまま、私を見つめた。
『ジョディ先生とは知り合い?』
見せられた画面に視線を向けると、そこにはそう書かれていて。
「・・・・・・」
どこでこんな事を覚えてくるのやら。
小さく息を漏らすと、今度は彼の目に視線をやった。
コナンくんにとって、私がジョディと知り合いかどうかが重要なのだろうか。
FBIだからと言って、知り合いと断定しなかったのは相変わらず察しが良い。
ただ、どういう理由であっても、今は彼に何かを明かすつもりはない。
「・・・秘密」
フッ、と口角を上げながら人差し指を口元に近づけ、どちらの質問にも同時に答えてみせた。
口頭の質問に関しては、こんな曖昧な言葉でなく、ハッキリ答えを出せるけれど。
とりあえず彼が盗聴などを気にしているのならと、それに便乗して答えた。
「・・・如月さんって、ほんと秘密主義だよね」
「でも、約束したことは教えてあげてるでしょ?」
彼とは一つ、与えると約束した情報がある。
安室透の動向。
勿論、報告できるもののみではあるけれど。
今はそれだけで我慢してほしいと、唇に当てた指を離し、手を合わせて謝罪のポーズへと変えた。