第8章 ハートの無いトランプ
「ま、まあまあ・・・ジョディ捜査官は渋谷先生と親友だったそうなので・・・」
「成程、ご友人でしたか」
私がジョディへと視線を向けていた際に交わされた会話に、思わず体がピクリと反応してしまった。
刑事の言葉に返事をした彼の声色が。
・・・あの時の。
組織にいた頃の。
バーボンの声色、そのものだったから。
「だとしたら、FBIに恨みを持った輩の仕業という線も、考えられなくもないですね」
「なに・・・っ」
・・・息が詰まるような。
そんな声色。
私が苦手とする彼の一面だ。
「ねえねえ、それよりさー?もう一度、ちゃんとお話聞いてみようよ」
あの頃を思い出して眉間に皺が寄っていると、場の空気を変えるようにコナンくんが割って入った。
そういえば、彼はどうしてここにいるのかまだハッキリとしていなかったな。
「今のところ、夕べ渋谷先生と会えたり会う約束をしていたのは、あの3人だけみたいだからさ」
そう言って、出入口に立っていた人達へと視線を動かし注意を引いた。
まさか彼も今の私と同じような立場でいる訳じゃないよな、と考えつつも、どこか本当にそうなのではないかと思っていた。
「そうね・・・まずは犯人探し」
ジョディはコナンくんの方へと体を向けると、言葉を続けて。
「夏子をこの職員室で殴って気絶させ、公園に運んで突き落とした犯人を見つけなきゃ」
・・・被害者はここで殴られたのか。
だから皆ここに集まっているのかと自分の中で納得しつつ、やはり概要だけでも教えておいてくれれば良かったのに、とバーボンに伏せた支線を向けた。
「ですね。じゃあ、僕達にも聞かせてください。夕べのことを、細大漏らさずにね」
僕達、か。
自然と私もそこに混ぜられていることに、やはり巻き込まれるのかと腹を括りつつ、FBIの大柄の彼からの強い視線から逃れるように、バーボンの背中へと隠れた。