第8章 ハートの無いトランプ
「遅くなって申し訳ありません、警部さん」
安室さんがそう言いながら警部に近付いていく間、私達は同じ表情をしていた。
小さな名探偵・・・コナンくんと。
「・・・・・・」
・・・ジョディ・スターリング捜査官。
「呼んだのかね?」
「それが・・・彼女の携帯電話の通話履歴に、彼の番号もあったので・・・」
彼女とはそれなりに見知った関係だ。
日本に居ることも互いに知っている。
時々、力を借りることもあった。
それに、彼女は赤井さんの・・・。
「ああ、先に言っておきますが、彼女は僕の助手としてここにいます」
「!」
一瞬思考を止めてしまったが、ようやく名目がこういう形でいるのかと理解した。
確かに、彼の言う通り助手というのが一番手っ取り早く、扱いやすい理由付けだろう。
ただ、そこまでして私を連れてきたかった理由が、未だ分からない。
「そこにいる小さな探偵君と同じくらい、色んな事に気が付きますので」
「そ、そんな事ありません・・・っ」
ただでさえ混乱しているのに、要らないハードルまで上げないでほしい、と反射的に返事をしてしまった。
あまりこうやって振る舞う姿を、ジョディには見られたくないのだけど。
「まあ、そう謙遜なさらず」
「・・・・・・」
ああ、なんてやりにくい現場なのだろうか。
そう思いつつ、ジョディの方へと目を向けると、すぐ側に立つ大柄な男性が嫌でも目に映った。
「・・・で?そちらの2人は、英語の先生か何かで?」
安室さんも気になったのか、そう警部さん達に尋ねていたが。
どこか刺々しく、嫌味を含んだように聞こえたのは、気のせいだろうか。
「ああ、いえ。そちらはFBIの方達で、訳あって捜査の協力を・・・」
FBI・・・彼もそうなのか。
こちらが知らないということは、彼も私のことは知らない可能性が高い。
であれば少なくともこの場は、彼は私のことを知らない方が良いと思って。
ジョディへの視線で、今は互いに黙っていてほしいと伝えると、彼女は小さく頷いてみせた。