第8章 ハートの無いトランプ
廊下を進んで行くと、とある部屋の前に人集りができていた。
直感でそこが目的地だと察すると、扉近くに設置されている、部屋名が記されたプレートに目を向けた。
・・・職員室。
そこには、そう書かれていて。
「・・・・・・」
事件か、事故か。
それにバーボンが関わっていることは間違いないのだろう。
でなければ、こんな所に来る理由がない。
何か気付いたことがあれば、という彼の言葉に、まだ引っ掛かりは覚えるが、今は淡々と彼の後をついていった。
「その上、妙な探偵まで雇いやがって!」
「!」
部屋のすぐ目の前。
彼はそこで一度足を止めた。
廊下に響き渡ってきた声は、まさに向かおうとしている職員室からしてきたものだった。
何故足を止めたのか、と横目で視線を向けてみると、そこにはいつも以上に口角の上がった彼の表情が目に映った。
どこか楽しんでいるようにも見える。
ある意味不気味とも思えた表情に、小さく眉をしかめた。
「ああ、あの先生の家に直接怒鳴り込んでやろうと思って跡をつけていったら、いきなり胸ぐらを掴まれたんだよ!」
足を止める前に聞こえてきた声と同じ人物が喋る最中、彼は止めていた足を再び動かし始めて。
「仕方ありませんよ」
慌ててそれについて進むと、彼はそう言いながら先に職員室へと姿を現した。
「僕は彼女から、ストーカー被害の依頼を受けていたんですから」
ストーカー・・・?
彼女からの依頼?
ということは、今ここに人集りができている理由の被害者は女性で、彼が依頼を受けていたから呼ばれた、ということなのだろうか。
・・・という考えを巡らせるまでは一瞬だった。
けれど、そこからはまるでスローモーションのように時が流れた。
「・・・ッ!」
その理由は、何気無く、何の身構えも無しに、そこにいるはずがないと思っていた人物に出くわしたからで。