• テキストサイズ

【安室夢】零番目の人【名探偵コナン】

第8章 ハートの無いトランプ




迷いと言うより、答えの無いそれにどう対処しようかと考えていると。

「!」

突然彼の胸ポケットからバイブ音が聞こえてきて。

主張を続けるその存在をどこか億劫そうに確認し、誰からなのかを把握してようやく席を立った。

「すみません、少し電話に出てきます」
「はい・・・」

助かった。
誰からか知らないが、正直な所そう思ってしまった。

この話は有耶無耶にできそうだ。
できなくても、逃げ切ってみせる。

・・・そもそも答えなど出るはずもないのだから。

ようやくゆっくりと紅茶に口をつけると、体の内側だけは落ち着きを見せたように感じた。

安室透と一緒だという事実がなければ十分に楽しめる場所なのに、と溜め息を吐き出しながら、大きな窓から見える外の景色を眺めた。

「ひなたさん」

それから数分後、彼は走らないながらも少し忙しない様子で戻ってきて。

「すみませんが、ちょっと用事ができてしまいまして」

彼の様子から何となくだが、そうではないかと察していた。

「そうですか・・・残念です」

運はこちらに向いているようだ。
いや、ある意味では不運なのだけど。

今の私にとっては幸運だった。

「では、私は電車で帰りますね」

上辺だけは言葉通り残念そうに。
でも今の笑顔はあながち嘘でもない表情で。

ある種の喜びを抑えつつ、足早に去ろうと紅茶のカップに手を伸ばした時。

その手に彼の手がそっと重なって。

「なので、もしよろしければ、ついてきて頂けませんか?」

絶望とも言える言葉を、眩しい笑顔と共に振りかけられた。

「わ、私がですか?」
「ええ、勿論」

あまりに受け入れ難い言葉に、思わず分かりきった質問をしてしまった。

何故、彼の用事に私が。
・・・なんて、考える意味は無い。

雰囲気から分かってしまう。

彼が今から私に、何か仕掛けてくることが。




/ 368ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp