第8章 ハートの無いトランプ
本当はもう検討がついた上での質問じゃないのか。
彼がするそれは大体がそう思ってしまうもので。
「・・・答えたくはないですね」
いっそ、正直に言っても良さそうなものだけど。
あまり深く問い詰められても面倒だから。
「どうしてですか?」
「私生活を詮索する男性は好きではないので」
あしらうように、そう言ってみせた。
あくまでも笑顔で、穏やかに。
そして誤魔化すように。
「おや、これは失礼」
互いの笑顔の下には別の感情が張り付いているのに。
覆い隠しているこの状況は、やはり息苦しい。
これがあと約1ヶ月続くのかと思うと溜め息が滝のように流れ出てきそうだが。
あと1ヶ月も無いと思えば少しは楽だった。
「ただ、知っておいてほしいことがあります」
少しの沈黙の時間が流れた後、運ばれてきた紅茶に手を伸ばしかけると、彼は徐ろに切り替えて。
「あくまでもこれは詮索ではなく、心配と・・・」
ミルクを入れて色を変えていく彼の紅茶の方に視線を奪われていると、先程までとは少し違う声色に、思わず紅茶から視線が動いた。
「・・・嫉妬、だということを」
低く、言い聞かせるような言い方。
そして、獲物を捕らえるような鋭い目つき。
「どうしようもなく、好きなんですよ」
「・・・・・・」
最後に、それらを覆すような甘い笑顔と言葉。
本来とは違う意味で、心臓が忙しなく動いていた。
「少しは伝わってますか?」
トドメの確認に、言葉は詰まった。
伝わるも何も、嘘偽りだらけじゃないか。
私に何を感じろと言うのか。
心配も、嫉妬も、好意も、全て。
私を陥れる罠だというのに。