第8章 ハートの無いトランプ
「行きましょうか」
・・・慣れている。
やはりそう思わざるを得ない笑顔と、仕草と、言葉を突き付けられる。
いや、実際慣れているのだろうけど。
そんな相手に一々戸惑いを見せるのも馬鹿馬鹿しいはずなのに。
彼が男性だということだけで、まだ体が強ばる。
昴さんにはかなり・・・。
「・・・・・・」
・・・かなり、慣れて・・・。
「っ・・・」
慣れてきて・・・いる・・・?
私が、男性に?
それも・・・昴さんに?
そんな、馬鹿な。
「ひなたさん?」
「!」
自分でも信じ難い事実に、今更気が付いた。
「す、すみません・・・ちょっとボーッとしてました」
これは・・・良くない事実だ。
他人にここまで警戒心を解くなんて。
「・・・・・・」
無意識に眉間へシワが寄っていく。
彼と繋いでいる手の事なんて、どうでも良くなっているくらいには焦っていた。
今思えば、煙草を貰った時もそうだ。
あの距離を・・・私は平然としていた。
何故あの時何も思わなかったのだろう。
こうなってしまった私にこれ以上話し掛けても無駄だと思ったのか、透さんは到着まで何も言ってこなくなって。
そんな上の空のまま数分歩いて辿り着いたのは、紅茶の専門店だった。
これ程までに彼は紅茶が好きだっただろうか、と昔を思い出しながら席に座って注文をすると、彼は私と同じ物を注文した。
「・・・・・・」
さっきの思い出したくない事実が、どうにも頭を過ぎる。
今は・・・今だけは、目の前にいる彼に集中しなくてはいけないのに。
「ひなたさん」
「な、なんでしょう・・・」
・・・今日もだ。
彼はやたらと私の名前を呼ぶ。
優しく、溶けそうな声色で。
・・・残念ながら、例の如くそういったものは私には効果が無い、が。
「最近部屋に戻られない事が増えましたけど、どちらで寝泊まりを?」
「・・・・・・」
こういう質問は、酷く堪える。