第8章 ハートの無いトランプ
そんな中で、誰かがゼロと口にしたのを聞いた気がする。
消去法から、それはスコッチだろうけど・・・そもそも、ゼロと言ったかどうかも怪しい。
幾ら子ども相手とはいえ、そんな曖昧な情報を口にする訳にはいかない。
「・・・ごめん、また思い出したら連絡する」
「う、うん・・・お願い」
白くモヤがかった記憶の鮮明化に失敗すると、何とも言えない虚しさと悔しさが残った。
そのせいか、険しい表情のまま彼にそう言ってしまって。
彼も僅かに戸惑いを見せながら返事をした。
「・・・・・・」
それにしても。
彼は昴さんの協力者のようだけど。
「私も聞いていい?」
「なに?」
何故、彼なのだろう。
どういう切っ掛けで出会い、何の理由でそうしているのか。
赤井さんのことも知っているということは、FBIとも協力体制なのだろう。
・・・だから赤井さんは私に彼の監視を命じたのだろうか。
監視という名の護衛として。
もしそうなら・・・最初から言ってほしかったけど。
言えない理由が何かあったのだろうか。
「コナンくんは、どこまで首を突っ込んでるの?」
この質問は、色々含めての質問で。
組織にも、FBIにも。
彼がどこまで食い込んできているのか。
単純だけど、複雑な質問だった。
「・・・・・・」
それに対し彼は長考の気配を感じさせたが、赤信号で車が止まり、横目で視線を向けた時。
僅かな明かりに照らされた彼の口角は上がっていて。
「如月さんより突っ込んでるかもね」
低い声で、はっきりと言ってみせた。
それはとてもじゃないが、小学一年生とは思えないもので。
「なんてね!」
その後に見せた年齢相応の仕草の方が、違和感を感じてしまう程だった。
「・・・悪い子だなあ」
明確な答えは得られなかったが、それ以上の物を得た気がする。
彼は只者では無いという真実を。
だからこそ赤井さんは、彼とコンタクトを取り続けているのだろう。