第8章 ハートの無いトランプ
「それがどうかしたの?」
「ううん、別に」
ここまで言っておいて、明確なことは話さないのか。
子ども相手に対価なんてことは言いたくないが、こちらもそれなりの事を聞いておかなければと思うのは、悪い事だろうか。
「あとね、如月さんにお願いしたいんだけど」
「?」
ようやく車を発車させると、彼は徐ろに別の話を切り出した。
彼にそう言われ、どんなとんでもないお願いをされるのかと身構えてしまったけれど。
「バーボンの昔のあだ名がゼロっていうことを聞いたんだ。ちょっと素性を調べてくれない?」
「ゼロ・・・?」
されたのは意外にも、そんなお願いだった。
そもそも、バーボンの昔のあだ名なんてどこで聞いたのか。
でもこれは場合によっては十分な対価になりそうだ。
「私でも調べてはみるけど・・・公には探れないから、仲間に頼んでみるね」
「お願い」
・・・ゼロ、か。
本名に繋がるのであれば、それはバーボンにとって痛い情報になるだろうな。
それが事実であれば、だけど。
「・・・ゼロ・・・」
赤井さんへの報告も一応すべきかと思いながら、ポツリとその名前を口にしてみた。
その瞬間、不思議とその名に聞き覚えのあるような気がしてきて。
「如月さん?」
・・・何だろう、この記憶が擽られるような感覚は。
奥底の、微かなそれは脳内で見え隠れしている。
ゼロ・・・そう誰かが呼ぶ姿が浮かんでくるようで。
「どこかで、彼がそう呼ばれてるのを聞いた気が・・・」
「どこ!?」
・・・これは、いつの記憶だろう。
「待って・・・」
組織に潜入して暫く経った頃だろうか。
ライと、スコッチと、そしてバーボン。
彼らと行動する事が多かったが、ライはなるべく私の傍にいてくれた。
それは当然のことだったのだが、スコッチも同じように傍にいて。
でも結果、行動パターンが似ていたのはバーボンだった。