第8章 ハートの無いトランプ
ともかく、彼も正急に話がしたかったのか、私の問い掛けにいつもの子どもらしい気配を瞬時に消して、真面目な顔付きへと変えた。
このある意味不気味と取れる程の雰囲気に、毎回背筋に冷たいものが走る。
それは悪寒や恐怖にも似ていたが、どこか興味や楽しみを得た高揚感を感じていたように思う。
そんな彼を横目にシートベルトを締めると、車のエンジンをかけた。
「ひなたさんってさ」
今日は何を聞かれるのだろう。
適当に車を走らせる為、彼のシートベルト着用を見届けると、ハンドルを握った瞬間。
「この間のベルツリー急行での出来事・・・赤井さん以外に誰かに話した?」
私の中は動揺で満たされた。
心臓が大きく跳ね上がり、前を向いた視線は一瞬でコナンくんへと向けられた。
何故、彼が。
「赤井さんのこと知ってるの・・・!?」
それも、ベルツリー急行での出来事を、と言った。
それはつまり・・・今、赤井さんが生きているということを、知っているということで。
「あ・・・うん。キールの時に色々とね・・・?」
キール・・・CIAの水無怜奈か。
彼女は赤井さんと協力体制にある人物だが。
何故、そんなことまでコナンくんが知っているのか。
彼は本当に・・・何者なのか。
「・・・・・・」
そういえば、彼女が病院に入院していた、組織との関係が緊張状態にあった頃。
頭の切れる坊やがいると、赤井さんから聞いたことがある。
あの時は若い青年のことを言っているのかと思っていたが・・・まさか、その時の坊やって・・・。
「それより、話したりは?」
彼に質問を重ねられハッと我に返ると、複雑に入り組んだ感情を何とか元に戻した。
「すば・・・沖矢さんは一緒にいたけど、それ以外は誰にも・・・」
コナンくん相手に彼のファーストネームを口にするのは躊躇いが出て。
直前に飲み込むと、質問にそう答えた。
そもそも、赤井さんにも話したというよりは、ミステリートレインその物にいたから。