第8章 ハートの無いトランプ
「博士には伝えてるの?」
「うん、泊まらせてって言ってある!」
コナンくんにそう尋ねれば、彼は満面の笑みで返答した。
博士の名前を出せば、恐らく蘭さんも安心する。
そう思って、彼は名前を出したのだろう。
それ程までに、彼らが信頼を寄せている人物なんだと実感する。
「そうなの・・・?」
実際、僅かだがこうして表情に柔らかみが出ている。
「私がついてますから、大丈夫ですよ」
「そうですか・・・?じゃあ、すみません」
本当にその阿笠さんの家に行くかどうかは、怪しい所ではあるが・・・何にせよコナンくんは、今日は帰るつもりがないようだ。
とりあえず2人きりになりたいのだろう。
そう思い、会話を早めに切り上げた。
別れの挨拶を交わすと、蘭さんはそのまま目の前の事務所兼自宅へと続く階段を、会釈をして手を振りながら上って行った。
「・・・悪い子だなあ」
「えへへ」
姿が見えなくなり、自宅の階の電気が付いたことを確認すると、彼に目を向け言い放って。
悪びれた様子は無いが、嘘をついたこと以外は悪いことをしていないから良いのか、と自分を納得させた。
まあ、その嘘も、必要な嘘で。
「歩きながらじゃない方が良い?」
「うん・・・できれば」
誰かに見張られている様子はないものの、彼は警戒心が強いから。
「車行こうか」
そう提案すれば、彼はいたずらっ子のような悪い笑みを浮かべ、首を縦に動かした。
ー
「それで?」
コナンくんが人質となった、あの事件以来、置物のようにされてしまった車に2人で乗り込むと、早々に話題を切り出した。
いや・・・彼が自らついて行ったから、人質というのはおかしいだろうか。