第8章 ハートの無いトランプ
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それから3日が経った。
あの日以来、私は透さんとも昴さんとも会ってはいない。
昴さんとは意図して会っていなかったが、透さんとはすれ違うようにして会えなかった。
・・・会えなかったというと会いたいように聞こえてしまうが。
部屋に帰っても、隣から気配はしなくて。
こちらとしては幸か不幸か分からなかったが。
平和的に、江戸川コナンの監視を続ける事ができた。
「・・・・・・」
ただ、何と言うのか。
心の中にぽっかりと、穴が空いてしまったような。
腑に落ちないような感情が、続いていた。
そんな中での夕方。
そろそろ真っ赤な街が暗闇になろうかと言う頃。
ポアロでの仕事を終え、部屋に戻ろうとした時だった。
「如月さん!!」
背後から突如声を掛けられ足を止めると、振り向くより先に足元へ衝撃が走った。
「こ、コナンくん・・・?」
彼が飛び付くようにして足にぶつかってきた為、僅かにバランスを崩したが、何とかその場に留まって。
「ねぇねぇ!如月さん、今日博士の家でゲームする約束してたよね!」
「え・・・」
咄嗟に向けた視線の先には、服の裾を掴んでは目を潤ませ、子どもらしく縋った様子を見せる彼があって。
一瞬、何の事かと戸惑いが出てしまったが、彼が僅かに見せたいつもの目を見た時に察しがついた。
『おねがい』
極めつけには口の動きだけで、そう私に訴えて。
彼の体に手を添えながら苦笑する表情を浮かべていると、彼が来た先から蘭さんが走ってきた。
「ちょっと、コナンくん!」
「こんばんは、蘭さん」
綺麗な長い黒髪を揺らしながら駆け寄ってきた彼女に目を向けると、いつもの如月ひなたとしての笑顔で挨拶をした。
「如月さん、こんばんは。すみません、コナンくんが・・・」
「いえ。私も彼との約束を忘れていたので」
わざわざこうして来るのには理由があるのだろう。
あくまでも私は自分が見える範囲での彼の監視だから。
私の見えない場所で、きっと何かが起こったんだ。