第7章 偶然は必然を嫌ってる
・・・いや、でも。
少なくとも昴さんといる時くらいは、作り笑顔を止めても良いのではないだろうか。
そんなことを言うと、さっきのが作り笑顔で無かったと突いてきそうだが。
・・・いずれにせよ。
「楽しいことがないのに、笑えませんよ」
さっき零してしまった笑みは赤井さんを思い出したからだ、と無意味な言い訳を心の中でしながら、アッシュトレイへと煙草を置いた。
「では、楽しいことをしましょうか」
彼も吸い終えた煙草を私が置いた煙草の傍に押し付けては、不敵な笑みを浮かべて。
「泊まっていくようでしたら、準備しますよ」
・・・楽しいこと、か。
「昴さんの言う楽しいことって、どんなことですか」
その次に出てくる言葉が泊まる、というものになっては、意味が確定的になってくる。
組織にいる頃、似たような誘い文句を腐るほど受けた。
それは私がそういう立場だったからで。
こういう事を言ってくる男は皆、同じ目をしていた。
酷く下衆いで、下心が見え透いて、私ではなく、外側・・・体しか見ていない。
嫌悪以外の何者でもなかった。
「貴女が考えるようなことですよ?」
・・・結局、彼もそうなのだろうか。
手解きという便利な名目を使っての。
「・・・・・・」
ただ・・・今の彼からは、そういうものを感じられない。
それどころか、こちらから求めても拒否を示しそうな目をしている。
本当に、読めない。
彼が何を考え、何をしようとしているのか。
「・・・何もしないと誓えるなら、泊まっていきます」
「何かしてほしい、と言っているようにも聞こえますね」
・・・分からない。
本当に、不思議な人だ。
目の前にいるのに、存在していないような。