第7章 偶然は必然を嫌ってる
「煙草・・・持ってますよね?」
以前感じ取ったのは、存在ではなく香りだった上、直接本人に確認してはぐらかされたけど。
何故かいつの間にかそれは、確信を持っていた。
彼は、喫煙者なのだと。
「1本頂けませんか」
吸った所を見たわけでも、吸殻を確認したわけでもない。
ただ妙に、自分の中では確定的だった。
「煙草、吸われるんですか」
突然の言葉に流石の彼も戸惑ったのか、数秒の間を置いた後、そう問いかけてきて。
「・・・日常的ではありません」
それには、どちらかというと否定で返した。
「あの人の真似をして吸ってみたことはありますが、正直苦手です」
・・・どうにも、体が受け付けなかった。
咳き込むことは無くなったが、吸いたいと思って吸ったことはない。
煙草の匂いを嗅げば、あの人の存在を近くで感じられる気がしたから。
それに・・・。
「吸えたら・・・少しでも話ができるかと思ったので」
あの人は、なるべく人のいない所で吸っていた。
それは彼と二人で話ができるチャンスでもあったから。
動機は単純で、子どもっぽくて、ある意味不純で。
そこに恋心のようなものは無かったと言っても、説得力は皆無だと自分でも思う。
私は憧れだったのだと・・・今でも思っているが。
「大変可愛らしいお考えですね」
「・・・・・・」
要らない一言を足してしまっただろうか。
それでも何となく、口が滑ってしまった。
言わない方が、変に勘ぐられそうだったから。
「どうぞ」
何も返事をせず押し黙っていると、彼はポケットから徐ろに煙草の箱を取り出した。
偶然なのか、それは赤井さんがいつも吸っている銘柄と同じで。
そこから一本だけ抜き取り口に咥えると、箱ごと私に手渡して。
「・・・ありがとうございます」
箱は新しいのに、減っている本数が多い。
今も一本、取っている。
ヘビースモーカー・・・には見えないが、そうなのだろうか。
余計な詮索をしながら私も一本取り出し口に加えると、一緒に手渡されたマッチに視線を落とした。