第7章 偶然は必然を嫌ってる
「相変わらず可愛らしい方ですね、猫に足を取られるとは」
「・・・・・・」
返す言葉もない。
そう思うと同時に、言葉で虐げられればそうされる程、身が引き締まっていくようで。
本人に、虐げるつもりはないのかもしれないが。
これだ、と求めていたように体が警戒心を吸収していった。
「・・・それで?」
一通り説明し終えた数秒後、彼は予想通り話の続きを所望した。
彼とは一応、バーボンを切っ掛けに結託した関係だ。
その張本人が話に出てきては、続きを聞かないはずもないだろう。
「・・・・・・」
けど。
話したく、ない。
「ひなたさん」
催促するように名前を呼ばれたが、拒否をそのまま示すように目を背けると、瞼も閉じて視界を遮断をした。
「・・・何もありません」
実際、本当に何も無かった。
何も得られなかった。
バーボンも、私も。
「昨日の夜から今朝まで、一緒に居たのに・・・ですか?」
「!」
・・・しまった。
そう気付いた時には遅かった。
彼の言葉に僅かに動揺し、閉じた瞼を反射的に開いてしまい、図星だと体現してしまった。
だって。
一晩あの部屋に居たことは・・・話していないから。
「彼と、部屋で何を話し、何をしたのか」
ソファーから立ち上がり、ゆっくりと私に近付いてくる。
その度に心臓を少しづつ、締め付けられるようで。
「ひなたさん」
目の前で立ち止まり、彼の影が落とされて。
「教えて頂けませんか?」
昨日の、倉庫での出来事が鮮明に呼び戻されてくる。
「何も話してませんし、何もしてませんってば・・・っ」
思い出さなくても良い記憶と共に。
「おや、わざわざここに来たということは、何かあったと思ったのですが?」
「・・・っ」
・・・ある種、ここに来てよかった。
この人は中身から私を引き締めてくれる。
そのやり方は気に食わず、苛立ちも伴いはするが。
それ程痛いところを突かれているということだから。