第7章 偶然は必然を嫌ってる
「そうですか」
帰宅の言葉に、彼は残念そうな声色だが、あっさりと返事をした。
「楽しかったです。また来てください」
「・・・は、はい」
大人しく帰してくれるとは思っていなかったが。
ポアロの仕事もあるせいか、その後は呆気なく自室へと戻る事ができた。
「・・・・・・」
部屋へ戻ると、ベッドに倒れ込んで。
先程までの出来事を、何度も繰り返し脳内で流した。
実際は半日程度だったが・・・酷く、長い時間だったように思う。
・・・結局、昨日のことはあれ以上話をしなかったな。
彼が私のことを聞けば、私も彼のことを聞くと思ったからだろうか。
・・・で、あれば。
正体をハッキリ明かすタイミングだったのだと思うけど。
彼はそうしなかった。
それが何故かは、考えるのも面倒だが。
「・・・・・・」
どうにも、ふわふわする。
体も、気持ちも。
集中力も警戒心も、思考力も。
全てを失っている。
そんな中で真っ先に思ったのは。
早めに昴さんに会って、気持ちを正しておきたい。
・・・そんな事だった。
「ふー・・・」
彼に会えば、現実に引き戻されるような気がする。
弄ぶような態度は癪に障るが、間違ったことは言わないから。
倒れた体を引き起こしながら、乱れた髪をかき上げては、あの何を考えているか分からない笑みを思い出した。
・・・ただ、彼は妙に勘がいい。
僅かな心の乱れをも見透かすから。
この厄介な考えも・・・見透かされるのではないかという心配はあった。
ー
「それで、彼に見つかってしまった・・・と」
その日のポアロでの仕事を終えると、私は報告という名目を持って工藤邸へと出向いていた。
結局来てしまった、と思いつつも、どっちみち会わなければならなかったのだと、心の中で息を吐いて。
とりあえず倉庫で起きた出来事までを報告し終えると、彼はクスッと小さく笑いを漏らした。