第7章 偶然は必然を嫌ってる
納得なんて、する必要もないのに。
いや、そもそも私はさっきから何を考えて・・・。
「失礼します」
「っ・・・」
・・・そんな無駄な考えをしている中で、私の体は彼の腕の中にすっぽりと収まり、同時に思考は完全に停止した。
しっかりとした体を言葉通り肌で感じていると、彼の片手が私の後頭部へと沿わされて。
少しだけ、強く。
苦しく無い程度に、抱き締められた。
「・・・・・・」
温かい。
人の体温というものに、無条件に体が安心感を覚える。
・・・倉庫での彼の手袋越しの体温も、どことなくそうだった気もする。
遠い昔のあの日・・・赤井さんに抱き締められた時も、同じように体温で酷く安心した。
そのせいか、眠気に似た感情が体を包むと、ゆっくりと力が抜けていって。
体が自然と、温もりを敏感に感じ取るように。
私の瞼は段々と重みを増していって。
「・・・っ!」
・・・瞼が閉じた瞬間だった。
行動と反して、目が覚めたのは。
「ひなたさん・・・?」
違う。
私は何をしているのか。
警戒心を働かせるどころか、安心感を覚えるなんて。
我に返ったその瞬間、考えるより先に彼を突き放すように勢いよく腕を伸ばしていた。
「・・・!」
その時に見えた彼の表情は落ち着いた様子ではあったが、目は見開き驚いたものをしていて。
・・・そうだ。
今の行動は、如月ひなたとしては間違っていた。
「す、すみませ・・・ッ」
咄嗟に謝りながら、思わず視線を落とした。
距離を縮めるものとしては、最適だったのに。
自らそれを、棒に振った。
「こちらこそすみません。少し度を過ぎていましたね」
呆気なく離れた体は、一瞬で冷えていくようで。
それは冷や汗のせいなのか、それとも。
「わ、私そろそろ帰ります・・・準備もあるので」
声が・・・震える。
失敗をしたという事実からもあるが、何より自分自身を保てなかったことへの恐怖が・・・大きかった。