第7章 偶然は必然を嫌ってる
「少しでも、僕を見ていてほしい・・・という我儘です」
「・・・・・・」
なんてズルい声色と物言いをするのだろう。
・・・全て上辺で、演技で、本当の気持ちなんて込められていないと分かっているのに。
引っ張られて・・・しまいそうになる。
期間は1ヶ月しかない。
だからこそ、彼もこういったテクニックを出し惜しみせず、披露しているのだろう。
「ひなたさん」
「・・・はい」
やたらと私の名前を呼ぶのも、一つの作戦なのか。
私は彼の名前を呼ぶ事だけでも、こんなに苦労するのに。
・・・というのは、完全な八つ当たりで。
とりあえず、なるべく感情を無くした状態で返事をしなければ、と返事をしたが。
「・・・もう少しだけ、我儘を言っても良いですか?」
どうにも、彼の問いかけ方は心臓に悪い。
視線、仕草、声色、表情。
全てに、自分の中の何かが引っ張られていくようで。
「い、一応聞きます」
無意識に身構えては、ほんの少し身を引くように体を動かし、彼へと視線を向けた。
ここまで警戒心を出してはいけないと頭では分かっていたけれど。
何となく、次に来る言葉が。
「抱き締めても・・・構いませんか」
そんな類の言葉だと・・・察知していて。
「・・・ッ」
なのに、返事の言葉はすぐに出てこなかった。
答えは素直に返せばいい。
嫌なら嫌と、言っても問題は無かったはずなのに。
「ダメですか」
彼の訴えかけるようなその目は、私を掴んで離さなくて。
・・・どうにも、意地悪や作戦等で言っているようには見えなくて。
「少し、だけなら・・・」
抱き締められた際、彼は私を仕留めにくるかもしれない。
何か意図があるかもしれない。
そんな事は百も承知なのに。
何故か・・・警戒心が働かないまま、了承していた。
「ありがとうございます」
そうお礼を言う彼の笑顔も、嘘には見えなかった。
・・・そういうことが上手いだけだ。
言い聞かせるように何度も何度も脳内で繰り返したが、自分を納得させる事がどうにもできなかった。