第1章 朝日は終わりを告げた
「ほォー、いいマンションですなあ。家賃結構するでしょう?」
部屋へと向かうまでのエレベーターの中で、毛利探偵は樫塚さんにそう尋ねて。
「ええ・・・あ、でも親のスネをかじって兄と2人で住んでいたので」
・・・お兄さん、か。
それに引っ掛かりを覚えているのは、どうやら私だけではないようだけれど。
「もうこの辺で結構ですよ。誰も待ち伏せていないのは分かりましたし・・・」
「そうですな」
エレベーターを降り、部屋の前まで辿り着くと彼女はそう言って。
確かに誰も待ち伏せが居ないことは分かった。
でも彼が確認したいのは、それだけでは無いだろう。
・・・いや、彼ではなく・・・彼らか。
「あー!トイレに行くの忘れてたァー!漏れちゃうよォー!お姉さん!トイレ!お願い!」
皆が帰ろうという雰囲気の中、切羽詰まった様子でコナンくんがそう言いながら飛び跳ねて。
彼女も子どものそれに焦ったのか、慌てて鞄から鍵を取り出すと、急いで玄関の鍵を開けた。
「トイレは玄関入ってすぐ右側だから・・・」
「うん!ありがとー!」
その扉が開かれると、彼は一瞬何かに気付いた素振りを見せては、彼女に言われた通りの場所へと向かっていって。
上手く部屋に入ったなと関心していると。
「じ、実は自分も我慢してて・・・」
「お、俺も・・・」
毛利探偵は判断できないが、バーボンも便乗するように、そう彼女に声を掛けた。
「・・・じゃあ、少し寄っていきます?お茶ぐらいしか出せませんけど」
恥ずかしい父親の姿にため息をつく蘭さんの横で微笑みながら、私も彼らについて部屋へと入ろうとした瞬間。
「・・・ッ!」
コナンくんが、一瞬何に気を向けられたのかが分かった。
「ひなたさん?」
「あ、すみません・・・すぐ行きます」
思わず立ち止まり、辺りを軽く見回した。
・・・この臭いは間違いなく。
血と・・・死臭の臭いだ。