第7章 偶然は必然を嫌ってる
「謝らなくても大丈夫ですが、少々気になります」
ミルクで色の変わった紅茶に口を付けながら話す彼に目を向けると、ふと感じたことの無い感情に包まれた。
「何か、悩み事ですか?」
こういう所なのか。
彼が、男女関係なく探り屋として働けるのは。
相手の懐に入るのが上手いというのか、警戒心を与えないというのか。
「まあ・・・」
・・・それに私も、まんまとハマっているという訳か。
「・・・・・・」
情けなさを通り越した思いの中、ふと彼からの視線が気になって。
私を見つめてくる彼を見つめ返してみたが、特に反応は無く。
「な、なんですか」
意図が分からず、居心地の悪さから思わず率直に尋ねてしまった。
それに対し彼は優しい笑みを浮かべ、紅茶のカップを口元に近づけながら。
「いえ、その悩みの種が、僕だったら良いなと思っていただけです」
そんな事を、言ってきた。
・・・あながち間違いでは無いそれを聞き、全ての感情が顔に出てしまいそうになったが、何とか留めたと思う。
「あくまでも、良い方で・・・ですけどね」
「・・・・・・」
挙句、しっかりとどめまで刺してくる。
一体何人の女性を相手にすれば、こういうスキルが身につくのだろうか。
彼程の顔と口の良さがあれば、どこに行っても困らないだろうな、と関係の無いことを考えて気を紛らわせた。
ー
「ひなたさん」
「・・・はい」
食事を終え、頃合いを見て部屋に戻ろうかと考えていた時。
「ひなたさんがポアロに出勤するまでの時間、2人で過ごして頂けませんか?」
唐突に、彼から誘いのようなお願いを受けた。
何故・・・というのが素直な感想だった。
でもその疑問は。
「デート、です」
すぐに答えを出されて。
そういえば以前そんな約束もしていた。
それがまさか今日で、本当に果たされるとはあまり思っていなかったが。
「ダメですか?」
さっきまでの吸い込まれそうな瞳と違い、子犬のような目を向けてくる。
彼は仕事が無くても生きていけそうだ、と心の中で何度目か分からないため息を吐いた。