第7章 偶然は必然を嫌ってる
「・・・大丈夫です」
どうせ銀食器でも、睡眠薬には反応しない。
そのままイスへと腰掛けると、彼は小さくフッと笑って、カップに入った紅茶を私の方へと置いた。
この紅茶も、食事も、全て。
私は彼が作った工程を見てはいない。
毒や睡眠薬を入れるなら絶好のタイミングだ。
でも彼は何も入れていないと言った。
・・・何故か、その言葉が嘘のようには感じられなくて。
そんな考え、温いのだろうけど。
安室さんの言葉を信じ、口を付けるべきか。
もしくは、用事と偽って部屋を立ち去るべきか。
それとも。
「パン、焼き上がりましたよ」
差し出された皿に乗ったパンを手に取りお礼を言うと、手を合わせ食事前の挨拶をした。
・・・安室さんの言葉を信じる訳では無い。
どこか自分への身勝手な罰のような感覚で、用意された物に口をつけた。
「・・・・・・」
全て、ちゃんと美味しい。
紅茶も、パンも、綺麗に焼き上げられたオムレツも。
・・・最近、他人が作った物を安易に胃へ運んでいる気がする。
赤井さんが知れば・・・叱られるだろうか。
「ひなたさん」
食事も終わりに近付いた頃。
彼に呼ばれ視線を皿から彼へと向けた。
どこか切なそうにも見える瞳で見つめられれば、捕らえられたまま視線は動かなくなって。
「最近、ちゃんと眠れていますか?」
そのまま彼にそう問われ、適当にあしらえば良いのに、ふと考えてしまった。
「・・・・・・」
そういえば。
最近あまり睡眠時間を取れていなかったかもしれない。
というよりは、眠れなくて。
隣に安室さんがいるあの部屋では、気も立っていた。
工藤邸も同じく、昴さんがいたから。
「・・・すみません」
もしかすると、ポアロでもミスをしていたかもしれない。
そうなれば、安室さんにも迷惑が掛かっていたかもしれないと、そこは素直に謝った。
あくまでも今の私にとって安室透という人は、ポアロで働くただの同僚だから。