第7章 偶然は必然を嫌ってる
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「!!」
気が付けば、日付が変わっていた。
いや、眠る前に変わっていたのかもしれないが。
起床と同時に体を勢いよく起こすと、瞬間的に冷や汗が吹き出てきた。
・・・やってしまった。
見回せばそこは、安室さんの部屋で。
それが間違いないことを確認すると、焦りもとめどなく溢れ出た。
FBI・・・失格だ。
敵のテリトリーで眠りこけるなど、言語道断。
クビになっても何の言い訳もできない。
・・・睡眠薬を入れられた様子はなかったはずなのに、どうして・・・。
「おはようございます」
「!?」
自分の無能さに愕然としていると、部屋の主である彼が、キッチン側の方から顔を覗かせて。
相変わらず気配の無いそれに肩を震わせ驚くと同時に、フワッと香ってくる匂いに胃を擽られた。
「お、おはよう・・・ございます・・・」
・・・脳がおかしくなりそうだ。
「朝食はパンで良いですか?」
「え、あ・・・はい・・・」
彼の部屋で目覚め、あまつさえ食事を準備されそうになっているのだから。
思わず返事をしてしまったが、本来であれば断るところだろう、とようやく冷静になり、慌てて彼を追いかけるようにキッチンへと向かった。
「・・・・・・」
そこにあるテーブルには、全て2人分用意された朝食が綺麗に並んでいて。
まるでカフェの朝食のようだと目を奪われていると。
「大丈夫ですよ」
「!」
紅茶を準備しながら、彼は私に向かって徐ろにそう言って。
「昨日も今日も、変なものは何も入れていません」
視線は交わらないまま、そう言葉を続けた。
・・・私が怪しんでいると分かっての言葉。
でもそれ以前に、自分が怪しまれるような者だとわざわざ白状しているも同然の言葉で。
どういう意図があって言っているのか・・・分からない。
「何なら、銀食器でも準備しましょうか?」
銀食器であれば毒が反応するだろう、というジョークなのだろうけど。
それに私が反応できる程の余裕すらも、私には無くなっていた。