第7章 偶然は必然を嫌ってる
今更考えたって遅いが、その疑問が消えることはなくて。
他に考えがあってのことだったのかもしれないが、もしそうなら、それを昴さんには話しているだろう。
それはそれで癪な事だが、昴さんに私の作戦を伝えた時、彼は納得した。
・・・つまり、支障は無いと判断したはずだ。
だったら何故、最初にあんな方法を取ったのか。
結局、疑問は堂々巡りで。
「はぁ・・・」
考えていても仕方がない、と閉めた鍵を一度開けて。
外に出ると、もう一度施錠をした。
そのまますぐ隣の彼の部屋へと向かうと、静かめにノックを数回して。
「お待ちしてました」
数秒後には、柔らかな表情で彼が出迎えた。
「お邪魔します」
こう何度も、この部屋に訪れることになるとは思いもしなかった。
それも、彼が居る時に。
「お酒もありますが・・・ハーブティーにしましょうか」
「あ・・・はい」
いつものイスへと促されると、彼は戸棚から茶葉を取り出して。
私の目の前で、準備を始めた。
その手つきは美しく、綺麗な手指に思わず目を奪われる程で。
組織ではいつも手袋をしていたから。
あまり彼の素手を見る機会はなかった。
ポアロで料理をする際も目にして思っていたが、間近で見れば、やはりその美しさというものが強く伝わってくる。
「どうぞ」
非の打ち所がない。
何でもそつなくこなす彼が羨ましい。
彼が先にハーブティーに口を付けるのを見届けると、劣等感からか目を逸らした。
そこからは、他愛の無い会話が続いた。
何か聞き出せるかとも思ったが、無理に踏み込めそうも無くて。
変に不信感を与えるよりは、このまま引き下がった方が良いだろう。
ハーブティーを胃に流し込みながら意味の成さない会話を続けていた時、ジワジワと襲ってきていた変化に、私はようやく気付き始めた。