第7章 偶然は必然を嫌ってる
「なんでしょうか・・・」
飲まれてはいけない。
彼は安室透であるが、バーボンでもある。
それだけは・・・忘れてはならない。
「1杯、付き合って頂けませんか?」
警戒心を剥き出しにしないよう気を付けながら、ようやく彼の目を見ることができた。
その視線が交わった瞬間、突拍子も無く彼から誘いを受けて。
一瞬、今から?という疑問が頭を過ぎり、硬直してしまったが。
「明日、午後からですよね?」
彼のその言葉に、今からだということに間違いがないことを察した。
「・・・・・・」
これはピンチと捉えるべきか。
はたまたチャンスと取るべきか。
それは予測不能な為、結果次第ということになるが。
動かなければピンチにもチャンスにもならない。
「では・・・1杯だけ」
もう少し、聞けることがあるかもしれない。
例の男達のことが聞けたなら、一石二鳥ではないか。
そう思い、彼の誘いを受けることにした。
私の返事を聞いた彼は満足そうな笑みを浮かべると、何故か私の手を持ったまま、アパートまで足を進め始めた。
ー
「すみません、着替えだけ・・・済ませてきてもいいですか?」
「ええ、勿論」
安室さんの部屋の前まで辿り着くと、ようやく手を解放されて。
・・・彼に見られたくない物も持っている。
それを持ったまま部屋に入るのは危険だと判断し、一度自室へ隠すことにした。
「すみません、すぐ伺います」
足早に部屋に駆け込むと、まずはすぐに鍵を掛けた。
急に彼が入ってくるとも限らないから。
素早くその見られたくない物を隠し切ると、着替えを済ませた。
「・・・・・・」
所謂、そういう時用に用意した服は何着かある。
でもそれをなるべく使わないで済むような方法を、私は選んだ。
赤井さんだって、いつもならそうするはずなのに。
何故・・・今回はこんな方法にしたのだろう。
相手がバーボンだから、というのは半分納得できるが、相手の得意分野で挑むのはリスクもある。
ましてや私は不慣れだ。
なのに・・・どうしてだろう。