第7章 偶然は必然を嫌ってる
「それと、ここからパトカーが近付く様子が見えます。パトロールかもしれませんので、早めに退散した方がよろしいかと」
バーボンは更に外へと目を向けながら男達にそう言うと、少しの間ザワザワとした後、外に向かって足音が消えていった。
「っ・・・」
今、ここには確実に2人だ。
逃げ出すなら、今がタイミングなはずなのに。
体はまだ、動かなくて。
そんな私の傍に彼はしゃがみ込むと、私の頬にそっと手を這わせて。
「立てますか?」
「!」
優しい声色で、そう尋ねてきた。
手袋越しだが、体温を確認できる。
それ程までに、私の体が冷え切っていたという事だろうか。
「近くに車を止めています。とりあえずそこまで行きましょう」
彼は着ていた上着を私の体にかけると、手を引いて立ち上がる補助をした。
不思議と、彼のその声を聞いた瞬間に震えは治まり、軽々と体は立ち上がった。
「・・・・・・」
何も聞かないのだろうか。
言いたい事も、聞きたい事も山程あるだろうに。
「あ、の・・・」
私の手を引いて歩く彼の背中に向かって声を掛けると、彼は僅かにこちらを振り向きながら、どうしたのかと小首を傾げた。
「何も・・・聞かないんですか・・・」
素直過ぎる質問をしてしまったことに、自分でも驚いた。
まるでこれでは。
「聞いてほしいですか?」
そう言っているも同然だ。
聞かれないに越したことはないはずなのに。
「では一応尋ねますね。どうしてあそこにいたのですか?」
何を・・・自ら地雷を踏みに行っているのだろうか。
「・・・猫を追いかけていたと言ったら・・・信じてくれますか?」
その上、彼の問いかけにふざけた答えをして。
どんな人間でも、そんな言葉を信じるはずがない。
ましてや、あの組織の人間で探り屋である彼が・・・。
「勿論」
・・・信じる、はずがない。