第7章 偶然は必然を嫌ってる
数人いた男の中から1人、こちらへと壁沿いに続く階段の手すりに手を掛けて。
吹き抜けになっているが、向こうからこちらは見えにくい位置にいる。
ただ、登って来られては確実に見つかってしまう。
静かに焦りが募る中、息を殺し静かに体勢を整えた。
「・・・・・・」
人数的には不利だ。
もし見つかった場合、逃げる方が良いだろう、と逃走経路を確認していると。
「待ってください」
突然、階段を登りかけた男に静止をかけたのは、バーボンだった。
何故、と思わず横目で彼らの方に視線を向けると、バーボンは自らが階段の方へと向かって。
「僕が行きます」
「・・・!」
登りかけていた男の傍を通り抜け、こちらへと確実に近付いてきた。
「・・・っ」
どうしよう。
顔を見られる前に逃げるべきだろうか。
きっと、そうするのが最善なはずなのに。
何故か体が言うことを聞かなくて。
ただ彼が近づいてくるのを、待つことしかできなくて。
大きくなっていく足音に、心拍数がどんどんと上がっていった。
「ッ・・・」
階段を登り切ると、着実にこちらに近付いて。
彼の影が、静かに私へと下りた。
・・・見つかった。
そう思った時には、視線が既に下がっていて。
そこから上げることもできなかった。
「・・・おやおや」
脳内では、逃げろと叫んでいるのに。
体は情けなくも小刻みに震えながら、硬直していた。
今まで、こんな現場はいくつも経験してきたのに。
何故、彼相手にはこんなにも、動揺し、緊張が走るのか。
悔しさと、申し訳なさで、押し潰されそうになった。
「これはまた可愛い客人が紛れ込んでいますね」
「客人?」
手が・・・ゆっくりと伸びてくる。
ここまでか、と反射的に目を瞑り、その時の覚悟を決めた。
いざとなれば、自らの命を捧げる覚悟はできている。
そうできるものはあるのだと、言い聞かせるように脳内で繰り返していると。
「猫ですよ」
バーボンは、いつの間にか私の背後にいた猫を拾い上げると、下の階にいる男達にその子の姿を見せて。
杞憂だった、と話す彼らに優しい笑みを送った。