第7章 偶然は必然を嫌ってる
小さめのそれは、綺麗に磨きあげられていて。
一目であの人が準備したのだと分かった。
赤井さんがメンテナンスをした物に狂いはない。
それはあの人を知る人物であれば、誰だって自信を持って言える。
ただ問題なのは、日本では比較的隠密にやり取りするしかないそれを、なぜ昴さんが私に渡しているのか、だ。
「どこでこれを受け取ったんですか・・・」
「それについては、口止めされていますので」
直接私に渡す方がリスクが低い気もするが。
あの人なりに、何か考えがあるのだろうか。
・・・それよりも、昴さんがそこまで赤井さんに信頼されているということに、どこか苛立ちのようなものを覚える。
「あくまでも護身用ですので、いざという時以外は抜かないように」
「・・・分かってますよ」
何故彼にそんなことを言われなければならないのか。
子どものように、拗ねに似た感情を滲ませながら、アタッシュケースの中の拳銃に、そっと指を這わせた。
・・・嬉しい。
単純な感想は、それだ。
あの人がわざわざ、私の為に準備をしてくれたのだから。
嬉しくない訳がなくて。
思わず、口元が緩んだ気がした。
「!」
その瞬間、頭に何かが乗る感覚を覚えて。
驚きのせいか、目を見開いては体を固めてしまった。
「すみません。愛らしかったので、つい」
乗ったのは、彼の手で。
見上げた彼の表情は、飄々としていて。
本心の掴めないそれに、こちらは反対に眉を顰めた。
「・・・ふざけないでください」
「ふざけてませんよ」
言葉通り、彼はふざけているつもりはないのかもしれない。
でも、私は彼のそんな表情が苦手だ。
「至って、真面目です」
そう話す彼の表情も、言葉も、全て作り物のようで。
見えない壁が、あるようで。
「・・・・・・」
彼はそっと私の頭から手を取ると、無防備にも背中を向けて小さく手をヒラヒラさせて。
「今夜、お気を付けて」
そう言い残し、彼は部屋から去っていった。
ー
「・・・・・・」
あれから数時間後。
私は、仲間から受け取った情報から更に探りを入れるべく、とある倉庫へと出向いていた。
少し肌寒くなってきた季節、息は僅かに白く溶け込んでいく。
なるべくそれが漏れないようにと、フェイスカバーで口元を多い、帽子を目深に被り直すと、倉庫の隅で息を殺して潜んだ。