第7章 偶然は必然を嫌ってる
だからだろうか。
生意気にも、赤井さんの命令に少し抗ってしまったのは。
「・・・・・・」
そんな堂々巡りの考えをしながら支度をしていると、あっという間に時間は過ぎてしまって。
暗闇に溶け込むようなワンピースに身を包むと、いつもとは違う靴を履いて部屋を後にした。
ここから待ち合わせ場所まで、そう遠くは無い。
元より、そういう場所を選んでいるのだが。
通りを進んで路地裏に入り、更に地下へと続く薄暗い階段を下りる。
その先に、待ち合わせ場所に指定されたバーはある。
扉を開けば、バーテンダーが挨拶をしながら出迎えてくれて。
指定された席に座り、度数が弱めのカクテルを注文する。
暫くすると、FBIの仲間が通達事項を持って現れる。
それがいつもの流れだったのだが。
「・・・・・・」
どうやら今日は違うようだ。
誰かに・・・ずっと後をつけられている。
このままバーに入るのは危険だと判断し、振り向かないまま、いつもとは違う道を進んでいった。
暫く気配を感じ取りながら道を進んでみたが、相手は限りなく気配を殺し、一定の適切な距離を保っている。
どうやら素人ではなさそうだ。
嫌な気配というものは感じられないが・・・後をつけられることに良い気というのはしない。
それに、約束の時間にも遅れそうだ。
早めに巻いた方が良いだろう。
早急にそう判断を下すと、地下鉄へと続く階段を素早く下りた。
混みやすいこの時間であれば、人に紛れることは容易だから、と手っ取り早い方法をとった。
手っ取り早いが、デメリットもある。
相手が私を見失いやすい分、私も相手の気配を感じ取りづらい。
それを承知で人混みを抜けると、階段を上り、念の為巻けたかどうかを確認する為、バーへと続く道とは反対方向へ進んだ。
時間ギリギリまで確認したが、どうやら尾行は巻けたようで。
立ち止まって後ろを振り返り、最終確認を終えると小さくため息を吐いた。