第7章 偶然は必然を嫌ってる
「帰ります。また報告することがあれば伺いますから」
言うだけの事は言った。
もう、引き返せはしない。
どうせ私からあの人に連絡は取れないから、それらは全て昴さんに任せてある。
勿論、都合の良いよう報告するように。
・・・まだ、昴さんを信頼し切った訳ではないが。
「それでは」
ここに居たくはないが、帰りたくもない。
そんな天邪鬼な考えの中ソファーから立ち上がり、玄関へと向かおうと扉を開けた瞬間。
「・・・っ、!」
微塵の気配もなく、手を引かれた。
確かに気は抜いていたが、それでも触れるまで気付かないとは思わなくて。
「おや、鈍りましたか?」
思わず振り向きながら目を見開いて、そう言った昴さんに視線を向けた。
・・・癪だ。
そう思いつつも、自分が悪いのだと責める他無くて。
何に対するものか分からない苛立ちが、私の中に募っていった。
「僕も、本気ですからね?」
その苛立ちに油を注がれるように。
挑発的な声色で、彼はそう宣言してきた。
「・・・何度も言わなくても分かってます」
掴まれた手を雑に振り払うと、足早に工藤邸を後にして。
・・・そもそも、僕も、とは何なのか。
まるで、バーボンも本気だと言っているみたいだ。
どうせ2人とも、口だけのくせに。
そこまで徹底しなくても構わない、と益々苛立ちが募る中。
「あ・・・」
更に苛立ちを増やしてしまうことを、今更思い出してしまった。
数日前のあの日・・・ラブホテルで、今日のことを含めた今後の話をした後、昴さんから受け取るはずだった、預かっている物。
それを再び受け取り損ねてしまった。
「・・・・・・」
久しぶりだ。
こんなにも、色々乱れているのは。
少し頭を冷やして、自分を鍛え直す必要がある。
できることなら、赤井さんに稽古をつけてもらいたいところではあるが。
そんな事ができるはずもなく。
大きくため息を吐きながら、重たい足を何とか進めた。