第7章 偶然は必然を嫌ってる
「赤井秀一の命令に背いて」
・・・そう。
結果、私は赤井さんの命令を半ば聞かなかったことになる。
所謂ハニートラップで彼から情報を搾取するという手を、取らなかったのだから。
でもそれは、あくまでも今は、という話で。
「・・・完全に背いた訳ではないです」
そういう事が必要になれば、いつだって動くつもりではある。
ただその手段に及ぶ際は・・・私はこの国にいられなくなるだろうけど。
「・・・・・・」
それに、あの人があの時言った、壊れる前に・・・という言葉。
それもどこか、引っ掛かってしまっていて。
あの人もまた、こういう手段は取りたくなかったのではないだろうか。
・・・まあ、どんな手段を取ったとしても。
「何があろうと、あの人の立場が危うくなるようなことは絶対にしません」
これだけは守る。
赤井さんに連絡無く、勝手な行動をするのだから。
絶対に彼に不利になるようなことだけは避ける。
これは決して昴さんに焚き付けられたからなどではない。
・・・そう、どこか自分に言い聞かせていると。
「つまり、自分の命は守りきる自信がある、と?」
「?」
唐突に、昴さんは私にそう尋ねた。
なぜ今、私の命の心配なのかと首を傾げれば、彼は笑みを濃くして。
「そういう事でしょう?貴女の命がなくなれば、その責任は彼にあるのですよ」
嘲笑うように、そう言い放った。
「まさか、自分の命はどうなっても構わない」
その目つきは怪しく私を見つめ、普段は見えない瞳が捕らえて離さなくて。
「・・・と、思ってた。なんて事はありませんよね?」
楽しそうにも、見透かしているようにも見える表情で、私に問いかけた。
「・・・・・・」
赤井さんと連絡を取れるだけある。
やはり察する能力や勘は鋭いようだ。
「・・・どうでしょう?」
誤魔化すように言ってみたが、どうせ全て分かっているのだろう。
わざわざ尋ねてくる辺り、性格が悪い。
・・・いや、寧ろ清々しいか。