第7章 偶然は必然を嫌ってる
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数日後。
「・・・・・・」
私は久しぶりに、自分がセーフハウスとして使用する部屋へと戻ってきていて。
正しくは、その隣の部屋・・・だが。
「どうぞ」
その部屋のキッチン前に置かれたダイニングチェアに座るよう部屋の主に促されると、軽く会釈をして腰掛けた。
「紅茶、入れますね」
約束通り、彼・・・安室透は、尋ねてきた私に紅茶を準備し始めて。
それを横目に、キョロキョロと辺りを小さく見回した。
相変わらず部屋に物が少ない。
引っ越してきて間も無いというのもあるだろうが、それでも前に来た時と変わらないようで。
まるで、いつでもここを引き払えるようにしているみたいだ。
「ひなたさん」
「はい」
ポットへとお湯を注ぐ最中、彼は背中を向けたまま私の名前を呼んで。
「ミルクと砂糖、入れても良いですか?」
いつものように明るい声色で尋ねてくるそれに対し、いずれにせよ口をつけるつもりはないけど、と脳裏で考えながら。
「・・・いえ、大丈夫です」
無駄に消費することはないだろう、と笑顔で返事をした。
・・・この笑顔が最後まで保てるかは、些か不安な部分が残るが。
「お待たせしました」
「すみません、ありがとうございます」
数分後、出てきた紅茶に視線を落とすと、彼は向かいの椅子へと腰掛けた。
彼の前にはミルクの混ざった紅茶が置かれるのを見て、そういえばポアロでも彼はよくミルクを入れているなと思い出して。
「・・・・・・」
・・・いや、今はそんな事どうでもいい。
「安室さん」
「はい」
今日は話をしに来ただけなのだから。
「・・・私、やっぱり安室さんのことを好きになることはできませんでした」
1週間という期限。
それは自分の準備期間だったが。
やはり自分を変えることはできず、彼を探ることもほぼ微塵もできなかった。
「・・・なので」
あの人の命令に背くかもしれない。
でも初めて・・・自分ではこちらが正解だと、思ってしまったから。