第6章 ファーストコンタクト
「忠告、守って頂いているようで何よりです」
数秒・・・いや、数分経ったかもしれない。
瞬きも最小限に抑える中、彼はそう言って徐ろに構えを解いた。
それが油断を誘うものかもしれない、という警戒は怠らないまま、暫く様子を伺ったが。
「・・・これは何のつもりですか」
それ以上、彼が仕掛けてくる様子はない。
「特に意味はありませんよ。ちょっとしたテスト・・・とでも思っていてください」
・・・テスト?
今更なにを見ると言うのか。
相変わらず理解しがたい言葉を口にする彼から距離は保ったまま視線を外さないでいると、昴さんは徐ろにベッドへと腰掛け、着ていた服の襟元を正した。
そういえばいつも、襟のある服・・・というより、ハイネックの服を着ている気がする。
刃物で首元を狙われにくくする為かとも思ったが、彼の身体能力を見る限り、そういう心配が必要には思えなくて。
そんな細かく聞きたいことは山程あるが、まずは。
「・・・昴さん」
「なんでしょう?」
僅かに警戒を解くと、適切な間合いを保ちつつ呼び掛けた。
仮にここが彼の連れて来たかった場所だとして。
もう一つ言っていたことがある。
「先に、預かっている物から受け取っていいですか」
彼はポアロでそう言っていた。
どちらかと言うと、私の目的としてはそちらだった。
どこか赤井さんをチラつかされては、来ない訳にはいかない。
彼もそういうつもりで釣り上げたのだろうから。
「ここにはありませんので、それはまた後程」
・・・が、彼はこの時間を引き伸ばすように、それを焦らした。
確かに、今日渡すとは言われてはいないけれど。
折角ポアロの前で吐き出した空気が、また体に溜まっていくのを感じた。
「では、ここが連れて来たかった場所ですか」
1つずつ、確実に。
大きな疑問から解決していくことを決めると、もう1歩、ベッドに座る昴さんへと距離を詰めた。