第6章 ファーストコンタクト
ホテルの駐車場へと車が止められると、私達は静かに車を降りた。
こんな所でなければ、これからそういう事をしようとする二人には見えないだろうな。
そんな距離感で。
そう見られるのも、癪なのだけど。
天邪鬼な考えを浮かべながら、手馴れた様子で部屋を取る昴さんを背後から見つめた。
彼もまた、バーボンのように色んな女性を相手にしてきたのだろう。
でなければ、こんな事引き受けたりはしないだろうから。
「・・・・・・」
部屋へと向かう間、気まずい程に会話はなくて。
ここが彼の言う、連れて来たかった場所なのか。
まさかこういう場所だとは思いもしなかった。
・・・いや、予想がついていた訳でもなかったけれど。
「どうぞ」
とある一室の前に彼は立ち止まると、鍵を開けて私を中へと促した。
さっきから妙に感じる違和感を抱えながら、彼に一度視線を向けて。
それが不安からだったのかは分からない。
けど、昴さんの変わらぬ笑顔を見れば、何となく覚悟が決まった。
やると決めたのは自分だ、と彼の前を過ぎて部屋へと足を踏み入れて。
意外と簡素な内装に視線をやっていると、ほんの一瞬、背後で空気の流れを感じた。
「!」
同時に、殺気も。
「ッ・・・」
それが自分に向かっていることを瞬時に察すると、咄嗟に体を屈めて頭を下げた。
・・・あの時と。
初めて、昴さんと手を合わせた時と同じように。
頭上を昴さんの手が勢いよく通り過ぎた。
「流石です」
彼がそう賞賛の言葉を口にした頃にはもう、次の手が私に向かってきていて。
それを避けながら、部屋の間取りを確認しつつ距離を取った。
「・・・っ」
力では敵わないが、小さい体格を活かすことはできる。
彼が動きづらいであろう部屋の出入口へ続く廊下へと回ると、同時に逃げ道も確保した。
「・・・油断が命取りだと言ったのは、昴さんですよ」
何故彼が急に殴りかかってきたのかは分からないが、殴りかかってきたという事実に変わりは無い。
そのまま彼から目を離さないように、睨むようにして姿を捉え続けた。