第6章 ファーストコンタクト
「何かあった方が、嬉しいですか?」
上手くいかせたいのか、そうでないのか。
昴さんの行動の意図がずっと掴めないでいるが、そもそもこうして会っていることも疑問だ。
・・・そろそろ、家に帰って普通の生活に戻りたい。
「それは勿論。良い方に、ですけどね」
昴さんにとっての良い方、というのもよく分からない。
彼のことだから、恐らく説明されても分からない部分があるだろうけど。
「貴女にそんな顔をさせるような出来事は、無ければ良いと思っていますよ」
つまりは、何か悪いことが起きたと思っているのか。
でもその原因に昴さんが絡んでいるとは思わないのだろうな。
「・・・・・・」
それよりも・・・そんなに酷い顔だったのだろうか。
眉間にシワでも寄っていただろうか。
彼の前では取り繕わないにしても、安室さんの前では別だ。
やはり前より、笑顔を保つことも難しくなっているようだ。
何気ない彼の言葉を僅かに気にした脳は、自然と眉間に手を伸ばすように指示していて。
気付けばシワを伸ばすように指でそこを撫でていた。
「別に、昴さんが来たこと以外に悪いことは起きてませんよ・・・」
どこか自分に言い聞かせるように。
呟くような声量で零した為、彼に聞こえているかは分からないが。
それならそれで良い、と外へと視線を戻した時。
折角伸ばした眉間のシワは、更に深く刻まれることとなった。
「・・・!」
少し外れにあるそれは街中にあるものと比べ、僅かに控えめな佇まいだが、それでも一目で分かる。
所謂これが、ラブホテルと呼ばれるものだと。
「・・・・・・」
そうだ。
素より、私達はそういう関係だ。
これから安室さんとなる関係とは別物で。
こういう場所に来ることだって、一度や二度ではない。
今更、身構える必要もないはずなのに。
この妙に胸がつかえるような感覚はなんなのか。