第6章 ファーストコンタクト
「はぁ・・・」
ポアロで体に溜め込んでいた空気を大きな溜め息として吐き出すと、肩を同時に落とした。
・・・疲れた。
精神的にここまで疲弊するのは久しぶりな気がする。
もし、安室さんとそういう関係になれば、これだけの疲弊では済まないのだろうけど。
ドッと押し寄せた疲れを体でも感じ取りながら、重くなった足を進ませ始めた。
それは家でも、工藤邸でもない、街灯が少なめの道路沿いへ。
数時間前に姿を見せ、わざわざ連絡をするように口頭で伝えに来た彼だったが、どうせこの辺りを歩いていれば。
「・・・・・・」
・・・こうして、車で私を迎えに来るだろう。
そんな予想は見事に的中して。
背後から来た一台の車は、私の歩く傍に停車された。
自動で開くことのない窓のせいか、彼はそれ越しに私へ手を上げて。
「お疲れ様です」
可愛らしい形の真っ赤な車に乗り込むと、数時間前と変わらない笑顔で出迎えられた。
彼は精神的に疲れるということがあるのだろうか、と素朴な疑問を抱きながらシートベルトを締めると、静かに車は発車されて。
「どうでした?お仕事の方は」
いつも変わらないトーンで話せる彼もまた、私の中では見習いたい所ではある。
・・・あくまでも、その部分だけだが。
「・・・昴さんが来なければ、もう少しは平和でしたね」
彼の言動を見聞きする限り、安室さんを怒らせたいのは確かなようだ。
昴さんの言い分としては、冷静さを失わせる為だと言っているが。
「・・・・・・」
冷静さ、か。
仮に、このまま作戦を進めたとして。
私の冷静さの方が、保てるだろうか。
今日のように、大して触れられた訳でもないのに、動揺して。
・・・本当に、私は。
「何かありましたか?」
流れる景色に目をやりながら今日を思い返していると、昴さんから、ふと尋ねられた。
「どこか上の空のように見えましたので」
「・・・・・・」
ゆっくりと視線だけを昴さんに向けながら、数秒答えを選ぶために、口よりも先に思考を動かした。
何かあったかどうかであれば、何も無かった。
と、私は思うが。
でもそれは・・・無かった、と言いたいだけだろうか。