第6章 ファーストコンタクト
「嫌ですよ」
「!」
・・・目付きが、変わった。
この目は昔よく見た気がする。
それが何を意味するのかまでは・・・分からないが。
「行かないでください、と言いたいです」
「っ、!」
彼が次の言葉を発すると同時に、距離を詰められた。
それに気付いた瞬間には、自然と後ずさっていた。
触れないように、というよりは威圧で押された。
彼の異様な空気感に。
「当たり前じゃないですか」
彼が私を覆うように立つせいで、私の顔には彼の影が落ちていて。
逆光で彼の顔は暗く映り、怪しさを増していた。
「好きな人が、別の・・・それも、あの男と会っているなんて」
これが全て演技だと思うと、やはり賞賛さえしてしまう。
本当に彼が私を想い、嫉妬しているように見える。
そう、見せているだけと分かっているのに。
「考えるだけでも気が狂いますよ」
「・・・!」
彼の手が・・・頬に伸びてくる。
私の手には、吹きかけのお皿があって。
そのせいか、振り払おうという意識よりも、皿を強く掴んでしまった。
「でも、そんなことを言ってもひなたさんを困らせるだけですからね」
・・・組織にいる頃は、あまり彼のこういう部分は目にしなかった。
してこなかった、という方が正しいかもしれない。
私にできないことを平然とやってみせる彼を・・・見ていられなかった気がするから。
「付き合っている訳ではありませんし、僕にそう言う権利はありません」
もし・・・表面上、私達がそういう関係になったら。
「あくまでも、今は・・・ですが」
彼は私にどんな言葉をかけるだろうか。
「だから相手に喧嘩は吹っ掛けますよ。まだ、お互い同じ立場ですから」
そんな興味すら、湧いてくる。
「一歩も、引きはしません」
真っ直ぐに私を見つめる彼の目は、綺麗に澄んでいて。
あんな組織にいる人間だとは、思えないほどに。
「ひなたさん」
「!」
一瞬、その目に気を取られていた。
そこに僅かだけ無かったなかった自我を呼び戻されると、ハッとし、彼の表情を見た。
その、数秒後。
「好きですよ」
さっきまでの言葉の中で、一番嘘だと分かる言葉。
それを、あの綺麗な目で見つめられながら、浴びせられた。
嘘だと、偽りだと、分かっているのに。
・・・分かって、いるのに。
何故。