第6章 ファーストコンタクト
私の冷ややかな視線は通じた様だったが、昴さんの表情は変わることはなかった。
ただ私の意思も早めに汲み取ってくれたようで。
「では、待ってます」
最後に要らぬ言葉を一言残すと、いつもの様に何故ここへ来たのか分からないまま、店を後にした。
「・・・・・・」
ため息をグッと堪えるのが精一杯だ。
もう笑顔なんて、バーボンの前で作る必要もないのでは無いかとも思い始めて。
「・・・何を、ですか?」
「?」
数秒、昴さんが出て行った扉を見つめていると、安室さんから徐ろに、そう問われた。
彼の言うものが何を指しているのかすぐに察せず、一瞬疑問符を浮かべてしまったが。
昴さんの最後の“待っている”という言葉のことだと気付くのに、そこまで時間は要しなかった。
「・・・秘密です」
そもそも、私だって分からない。
連れて行きたいという場所も、渡したいという物にも検討がつかない。
私の返答に安室さんは僅かに不服そうな目を向けたが、そんな事をされても言えないものは言えない。
「・・・・・・」
・・・それよりも、だ。
先程からあまり目を合わせないようにしていたが、いよいよそれが痛みに変わるように突き刺さってくるようになってきた。
ソファー席に座る、女子高生達の視線が。
「安室さん、待ってますよ」
どちらとも目を合わせず、沖矢さんが飲み終えたカップを洗うことにだけ集中しつつ、小声で安室さんへ伝えたけれど。
「ですね」
何故か彼も小声でそう応えると、私が洗っていたカップを取り上げ、軽く腕で私をそこから押し退けては、代わりにカップを洗い始めた。
「・・・・・・」
彼が私に少しでも触れる度、視線の矢は何本も私を突き刺すのだけど。
それを知っての行動だろうか。
・・・知っていても知らずとも、結局私に湧いてくるのは怒りと溜め息なのだけど。