第6章 ファーストコンタクト
重ねられていた彼の手から逃れると、コーヒーを素早く準備して。
笑顔も保てなくなっているまま、カップに入れたそれを差し出した。
「・・・早く飲んで、帰ってください」
あくまでも今はお客様なのに。
取り繕えない自分が嫌になる。
・・・心が、ぐちゃぐちゃに潰れてしまいそうだった。
「・・・・・・」
自分の覚悟の弱さを思い知らされたようで・・・体中が軋む音がした。
ー
「終わり次第、電話してください。貴女を連れて行きたい場所があります」
安室さんが女子高生に捕まったまま、彼はコーヒーを10分程度の時間を掛けて飲み干すと、徐ろにそんなことを言ってきた。
結局あれから会話は無く、嫌でも耳に届く女子高生と安室さんの会話を半ば盗み聞きする形で、その時間は終わってしまった。
「預かっているものもありますから」
「・・・?」
預かっているもの、という興味を引くような言葉を口にする彼に、思わず目を向けて。
誰から、というのが一番気になりはしたが、私と昴さんの間で共通の人と言えば限られる。
・・・そして仮に、それがあの人からだったとして。
何故それは、私に直接渡してくれなかったのだろうという、もどかしい感情が見え隠れもした。
「あまり従業員を口説かないで頂けますか?」
「!」
その数秒は、気を抜いていたのかもしれない。
ただ、それ以上に・・・安室さんの気配が無さすぎた。
いや、それは今に限った話ではないが。
「そういうお店ではないので」
彼はいつの間にか隣に立ち、私の肩を引き寄せていた。
屈辱的ではあったが、油断していた私にも非はある。
一度や二度ではないこれは、失態なんて可愛い言葉では到底片付けられなくて。
「これは失敬。でも、口説いたつもりはありませんよ」
まあ、彼の言う通り、口説かれていた訳では無い・・・と、思うが。
そんな事を思いながら、引き寄せられていた安室さんを自然と押し退けて。
相も変わらず余裕そうな笑みで返す昴さんへは、早く帰ってほしいことを目で訴えた。