第6章 ファーストコンタクト
「随分と、親しくなられたんですね」
「・・・?」
私がカップを準備をする背後で、昴さんはカウンター席に腰を下ろして。
それらを横目に、安室さんは私にだけ聞こえるような声量で、そんな事を言ってきた。
何を持って彼がそう思ったのか。
鈍感過ぎた私には検討がついていなかったけれど。
「僕も、名前で呼んでほしいです」
「・・・ッ!」
彼が耳元で囁くように言ったその言葉で、またしても無意識に名前で呼んでいることにようやく気が付いた。
今までは意識しても難しかったことなのに、何故沖矢昴に対してはこうも無防備というのか、今まで通りの自分ではないのだろう。
「・・・・・・」
・・・分からない。
何もかもが分からなくなってくる。
私がこうなる理由も、ここに立つ理由も、バーボンが隣にいる理由も、沖矢昴や安室透という人間が近寄る理由も。
今私が・・・どうするのが正解なのかも。
「コーヒー、僕が入れますよ」
カップを持ったまま呆然としてしまったせいか、私の手からそれを受け取ると、彼はいつもの笑顔を私に向けた。
「あ・・・すみませ・・・」
・・・考えるな。
考えた所で全て無駄だ。
私は江戸川コナンの監視の為にここに立っていて。
バーボンは恐らく私に用があって。
沖矢昴は互いに利用し合う為に協力していて。
彼らが私に向ける感情は特別なものではなくて。
私はただ、バーボンの用の意味を探れば良いだけで。
・・・全て明確だ。
何も・・・悩んだり考えたりする必要はないはずだ。
「安室さーん!ここ教えて!」
頭の中を整理する為に私は、どうやらその他の動きを止めなくてはならないようで。
その最中に彼は、例の女子高生に手を振られ呼ばれていた。
「おや、ご指名のようですよ」
どこか楽しそうに分かりきった現状を口にする沖矢さんに、安室さんは鋭い視線を向けて。
互いの素性を知った上で敵対視するのなら多少の理解はするが、そうではないのに何故、こんなにも彼らはいがみ合うことができるのだろうか。
「あ、安室さん、私しておきますから」
「・・・お願いします」
間にいる私の立ち位置は的確なのだろうか。
もう既にそれが間違いなのではないだろうか。
考えるだけ無駄と分かっていても、何故か同じ考えばかりが脳内を巡った。