第6章 ファーストコンタクト
「誤魔化せると・・・思っていますか?」
その言葉に、背筋が凍った。
危うくそれが、表情にも出るところだった。
彼の表情は至って真面目。
私を挑発するような態度ではなかった、が。
どうにもその言葉は、煽っているようにしか聞こえなくて。
「・・・安室さんは」
私から、どんな答えが欲しいのか。
回りくどい会話を止め、単刀直入にそう尋ねようとした時。
「!」
入店を告げるドアベルの音が、私達の元へと届いた。
「・・・お客さん来たので、行きますね」
これは良かったのか悪かったのか。
結局ハッキリとさせられないまま、彼の傍をすり抜けホールへと戻った。
「いらっしゃいま・・・」
ドアを開け、声を掛ける。
その一連の流れが、段々とスローモーションになり止まっていく。
「こんにちは」
それは、目の前に。
「昴さん・・・っ」
彼が、現れたから。
「今日も貴女のコーヒーが飲みたくなりまして」
飽きもせず、毎回こうして突然ここに来るのは何なのか。
それもバーボンがいる日を狙ったかのように。
現れるのであればせめて、彼のいない場所にしてほしい。
そんな叶うはずのない願いを乗せながら、涼しい顔をして出入口付近に立つ彼を呆然と見つめると、バックヤードから安室さんが姿を現して。
「・・・おや、貴方でしたか」
昴さんに気が付くと、安室さんの視線は酷く鋭いものになった。
抑えきれない殺気が、私の背中にまで深く突き刺さってくるようで。
本当に・・・店内でこういうムードを作られるのは、お客さんが少なくてもごめんなのだが。
そもそも彼らがどうしてここまで揉めるのか、私には理解ができない。
「安室さん、あくまでもお客様ですから」
「ええ、分かってますよ」
本当だろうか。
そう言いたくなる目付きを、彼は貫いたままだが。
「昴さん、コーヒーで良いんですよね?」
「お願いします」
飲んだらさっさと帰ってほしい。
言いはしないが、視線で分かりやすく伝えた。
彼なら察しないはずがない。
・・・無視をされない限り。