第6章 ファーストコンタクト
「あのまま、友人の家に泊まったので・・・」
拭いているコップに視線を落としたまま。
隣に立つ彼の目を見ることはできず、そう返事だけをした。
「ほぉ・・・沖矢昴と一晩、ですか」
・・・何故、彼はいつもそう決めつけるのだろうかと思う反面、根拠が無ければ決めつけもしないような人だ。
尾行は無かった、発信機も盗聴機も付けられてはいなかった。
なのに何故、彼はこうも確信的に攻めてくるのだろうか。
「・・・違いますよ」
コナンくんは言い訳にもならないか。
昨日もかなり強引に逃れた。
今は、作られたこの笑顔を保つのに精一杯だ。
「!」
なのに、その笑顔すらも彼は簡単に壊してくる。
突然気配が近付いたかと思うと、すぐ側に彼の顔があって。
思わず目を見開き、バーボンの目を見てしまった。
「・・・いつもの香りと違いますね」
警察犬か。
そう言いたくなるような言葉だったが。
ハイエナやオオカミと言った方が彼には似合うかもしれない、なんて考えで動揺を隠した。
「気の所為じゃないですか。それに、あまり女性の匂いを嗅ぐのは好まれないと思いますよ」
少し呆れ気味に言ってみるが、彼は余裕そうに笑みを浮かべながら上辺的な謝罪を口にして。
完全に彼のペースに巻き込まれていることに、吐きたくなるため息をグッと堪えた。
「あ、安室さんいる!」
早くお客さんでも来てくれないだろうか、と吹き終えた食器を片付けていると、私の願いはすぐに叶った。
数人の女子高生が黄色い声を上げながら入店すると、安室さんへと駆け寄って。
「ね、勉強教えて!」
キラキラとした瞳は、彼をどういう対象として見ているのか一目瞭然だった。
彼がポアロに来て日は浅いが、早くも彼の人気が広がり始めている。
その為か、最近はバイト希望者や、女子高生のお客さんが増え始めている。
無論、バイトはマスターが断り続けているが。