第6章 ファーストコンタクト
「・・・・・・」
微かに、香ってくる。
少し懐かしい匂い。
「・・・どうかされましたか」
それを確かめる為に暫く動きを止め、脳内で処理をした結果、彼を見つめる形になってしまった。
そんな事を知るはずのない彼は、小首を傾げて空いた間の意味を尋ねてきた。
「昴さんって・・・煙草、吸いますか?」
「・・・・・・」
バーボンに言われた所為なのかもしれないが、体は敏感にそれを感じ取って。
煙草の匂いに多少の慣れがあったからなのか、その気付きは今初めてのものだった。
「・・・何故ですか?」
何故・・・?
そう問い返されるとは思っていなかった。
YesかNoか、答えはすぐに出るものだと思っていて。
「以前ここに泊まった時の朝、ポアロでバーボンに服から煙草の匂いがすると言われたので・・・」
その時の会話は、ブラフだった可能性もある。
けれど今感じた匂いは、間違いでなかったと断言できた。
「・・・・・・」
けれど、彼の問いに理由を説明したにも関わらず、何故か口を噤んだまま僅かに笑みを消した。
「昴さん・・・?」
殺気・・・ではないが、どこか彼の纏う空気が変わった気がした。
柔らかだったものから、急に尖ったものへと変わったような。
そんな不確かな感覚を覚えていると、彼は私と目があった瞬間、何かを取り繕うかのように私へ笑みを向けた。
「名前、呼んでくれるんですね」
「!」
一瞬、何の笑みなのか分からなかったが。
彼に言われるまで自覚がなかったことが、酷く恐ろしく感じて。
「違いま・・・っ」
言葉の誤だ。
眠る直前の記憶が色濃過ぎたのだと、目でも同時に訴えながら反論しかけた時。
彼の指が、そっと私の唇に触れた。