第5章 笑顔と泣顔が行着く先※
決して、あの時の赤井さんが下手だったと言いたい訳ではない。
寧ろあの時の赤井さんは、こちらが戸惑う程に優しく、丁寧に私に触れた。
・・・私が、快楽というものを理解できなかっただけで。
「ん、ぅ・・・ッ」
今、秘部に触れる彼の手に漏れ出る声の理由も。
そこから伝わる感覚も。
快楽によるものなのか、ハッキリとは分かっていない。
正直、もう。
そんなものが無ければ良いのにとすら、思ってしまう。
「息を、吐いていてください」
表情だけが強ばる中、頬に彼の体温を感じるおかげか、大きな不安はなくて。
・・・やはり彼は、不思議な人だ。
色んな意味で。
「ンっ・・・」
下着は付けたまま。
隙間から忍ばされた指を、僅かにナカへと挿入されて。
その妙な異物感に思わず瞼を閉じると、あの時と似た感覚を思い出した。
・・・行為、には変わりない。
けど、私にとってはまだ“作業”というのも同等で。
愛情が無いそれに、何の意味があるのか。
どうして人はそれを求めるのか。
相手が良ければ誰でも良い、という人間も存在する。
そんな人間に捕まった者からすれば・・・理解するのはきっと、一生難しいだろう。
「・・・痛みがあれば、すぐに言ってください」
ゆっくりと深く飲み込まれる指に、表情を歪ませて。
痛み、と言うのだろうか。
違和感というのはある。
ただ、それ以外の感覚もある。
ゾクゾクと体が浮くような、落ち着けない感覚が。
「ゆっくり、慣らしますから」
あの時の赤井さんも。
こんな感じでゆっくりと事を進めていた。
「・・・ん・・・っ」
・・・ああ、そうか。
似てるから、この僅かな安心感があるのか。
赤井さんと、沖矢さん。
彼の手の感覚と、瞳が。